幼年連祷・新実徳英氏の合唱に対する思い

来年2019年5月26日(日)に、新宿混声合唱団第52回定期演奏会で、
新実徳英氏が作曲した「幼年連祷」の合唱組曲の演奏を致します。

↑先月5月27日に開催した第51回定期演奏会

現在、この組曲の音取りが始まっていますが、
吉原幸子氏が作詩した抒情的な詩で、非常に難解な歌詞に
新実徳英氏が抒情的な作曲をされていますので、
曲作りも非常に難航しそうな感じです。

そこで今回は、作曲家の新実徳英(にいみ とくひで)氏を
取り上げてみたいと思います。

↑新実徳英氏

1947年名古屋生まれ。愛知県立旭丘高等学校を卒業後、
東京大学工学部に進み卒業しました。

しかし、高校時代に合唱に親しんでいたころから
作曲家への憧れを持っていたそうで、
東大在学中に大中恩(おおなかめぐみ)氏の
主催する合唱団「コール・Meg」に参加し、
そこでの経験から本格的に作曲家を志したと言われています。

↑大中恩氏(1924年生まれ、現93歳)

そして、三善晃(みよしあきら、1933年~2013年)氏に師事し、
東大卒業後に東京藝大への入学を決めたそうです。

77年ジュネーブ国際バレエ音楽作曲コンクールでグランプリ受賞。
84年度文化庁芸術祭優秀賞受賞。
06年「協奏的交響曲~エランヴィタール~」で第55回尾高賞を受賞。
現在、桐朋学園大学院教授、東京音楽大学客員教授を務めています。
日本作曲家協議会理事。

こうした多才の持ち主ですが、
新実徳英氏を知る上で、新実徳英氏著書で、
新書判シリーズの〈燈台ライブラリ〉の第2巻として、
合唱音楽に焦点をあてた
『合唱っていいな!~作曲・演奏新実 徳英・指揮をめぐって~』

この中に書かれている言葉で、
新実徳英氏の合唱に対する思いを探ってみたいと思います。

【前書き】
「合唱っていいな!」と折あるごとに思うのです。

もちろん、ぼくは作曲家としてあらゆるジャンル、
オーケストラ・室内楽・吹奏楽・邦楽、各種独奏・独唱・・・、
なんでって大好きなんですが、合唱はやはり特別です。

それは、高校に入って初めて合唱に出会い、自分の肉体から出る声が、
他の人たちの肉体から出る声と溶け合って一つになる、
その鮮烈な体験がずーっと自分の根っこにあるからです。

声は外に出ているのですが、まだ自分の肉体とつながっているのです。
合唱のハモリはその声の融けあい!これが佳い(よい)のですね。
合唱は「温度が高い」。

【第1章】
合唱音楽の魅力を考える

「合唱のおススメ」
音楽を聴くのは楽しい。
けれど、自分で歌ったり演奏するのはもっと楽しい!
しかし楽器演奏は高度な専門的技術や知識が必要となるので、
誰でもすぐにできるというわけではない。

その点、気軽に参加しやすいのは合唱です。しかし奥が深い。
どこまでも深く、かつ、私たちの日常語である日本語、
そして日本語による詩に目を開かせてくれる。
合唱はふもとがなだらかで登り始めやすく、
登山路に危険なところがあるわけでもなく、
しかも山頂は高く遠く雲に隠れているような山に似ています。
まずは参加してみることをおススメします!

「合唱のコミュニケーションの素晴らしさ」
合唱団を外から見ると、お金にも地位にもならないのに、
なぜみんなあんなに一生懸命になれるんだ、という疑問がわきます。
なにがそうさせるのか。
まずなんといっても音楽を作るという行為の楽しさですね。
合唱でもアマチュアのオーケストラでも同じことなんですけど、
みんな集まり、より高いものを求めていくということ、
これが楽しさの源泉です。

たとえば、カラオケと比べてみると、
カラオケは自分が歌いたいだけなので、
他人が歌っているときは、次に自分が歌う曲を探している。
(思い当たりませんか?)ディスコミュニケーションです。
カラオケをやる人に創造意欲はない。(当たり前か?)
その場の楽しみ、気持ち良さを求めているだけなのです。
言い過ぎかもしれませんが。(笑)

「第一歩=ハモる」
合唱の一番基本的な魅力はハモること、
いろんな音高の声が和音となって融け合うことです。
もちろん、素敵なユニゾンを作る(ひとつの旋律を大勢で歌う)ことも
それに入ると思いますが、やはり、四声体がきれいにハモり、
その中に自分が融けこむ、この魅力が最初にあると思います。
それがないところでは合唱は生まれない。
ハモるということでは
弦楽合奏でもオーケストラでも吹奏楽でも同じなんだけど、
合唱の場合それがものすごく強く感じられるのは、
自分の体の中から出てくる声が他の人の体の中から出てくる声と
まじり合ってひとつに融け合うというところがすごく大きいのです。
互いの肉声が一つに融け合い、ハーモニーを作り出すのです。
体験してみれば誰でも、ああなんでいい空間だろうと思うはず。
合唱の魅力の本質もそこにあるのです。

どうでしょうか?ほんのサワリの部分だけですが、
新実徳英氏の合唱に対する思いが十分伝わってきますね。

この本には、他にも
「十の声を一つの声に」「合唱演奏の向上のために」など、
目が点になったり、目からウロコになるようなことが
数多く書かれています。興味のある方は是非お読み下さい。

では、また!

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コメント

  1. ゆ〜じ より:

    新実徳英さん、どことなく好きなのです。
    80年代後半、高校時代に合唱にはまった人間としては、合唱曲というと、この人のイメージが強いです。
    ブラームスやバッハのようにスマートに洗練されてないけど、少し怪しげな雰囲気があって、つい惹かれてしまうのです。
    特に個性的な今回の作品、歌えて幸せです。

  2. やぎ より:

    大学に入学して合唱を始め、最初に歌った組曲が新実徳英さんの「やさしい魚」でした。
    「ジョギングの唄」のイントロ半音進行とか「鳥が」の旋律の美しさとか、合唱にハマるきっかっけになった曲の一つです。
    ゆ〜じさんのおっしゃる「少し怪しげな」という気持ち、当時18歳の私も同じことを考えておりました(笑)
    決してきれい”だけ”では終わらせない新実さんの曲!また歌いたい。

  3. 幽民 より:

    「幼年連祷」は、大学合唱団(旧都立大エリカ混声合唱団)3年の時(丁度30年前!)、新宿混声に入って第26回定演(丁度25年前!)に歌って以来、今回で3回目となります。しかも3回とも田中先生の指揮で!!
    それだけに、思い出、思い入れが深い曲です。
    それだけではありません。
    学生時代、我々が初演した「鷗」(木下牧子作曲)の音源を分けて欲しいと、当時東大緑会合唱団の学指揮をしていた方から依頼があり、カセット(!!(当時感満載(笑)))にダビングして差し上げたところ、ご自身が指揮をされた「幼年連祷」のこれまたカセットを御礼として下さいました。
    その演奏は、とても学指揮レベルとは思えない、非常に情熱的で、思い入れの深い、熱演でした。人によっては好みが分かれるかも知れませんが、私は好きな演奏でした。
    その方とは、毎年年賀状でやり取りし、また新宿混声に入ってからチケットをお送りして何度か来て頂き、とても好意的な評価と激励を頂く間柄になりましたが、不思議なことに直接お会いしたのが何かの演奏会の際の一度位しかなく、まるでチャイコフスキーとその面識なき支援者のフォン・メック夫人の今様の関係のように(かなりのうぬぼれですが)思えたことがありました。
    残念ながら、10年位前になるでしょうか、毎年のとおり年賀状を送りましたところ、親御さんからご本人が前年にお亡くなりになったとのこと…もっとお会いして色々合唱談義をしたかったと、悔やまれます。
    誠に個人的な思い入れで恐縮ですが、「幼年連祷」といえば、その方のことを思い出します。
    この曲を歌う度に、彼は何と言うだろう、何と思うだろう…そういう思いが逡巡します。
    来年5/26の本番までに、改めてこの「幼年連祷」を歌う時に、その彼の思いを汲み取りつつも、田中先生の許で新宿混声が自分たちの「幼年連祷」を如何に歌うべきか、その問いに対する答えを探し続けて行く残り10か月(1年ぢゃないですよ、最早!!)にしたいと思っています。